【映画】「シー・フィーバー」
ナッサ・ハーディマン監督の「シー・フィーバー」(原題: Sea Fever, 2019)を視聴しました。
あらすじ
人付き合いの悪い研究生のシボーン(ハーマイオニー・コーフィールド)は研究のために漁船に乗って調査活動を始める。
赤毛の彼女は漁師たちにとってはタブーとされて最初は忌避されていたが、徐々に仲間に入れてもらう。
船内がいいムードのところでクジラが数頭船の近くで泳いでいるのを見かけて盛り上がる乗員たち。
しかし突然巨大な物体に衝突し、船も衝撃で動かなくなり孤立無援になる。
さらに船底から奇妙なスライム状の物体が染みだす。
どうやら船底に何が貼り付いているようなので外から剥がすことにするが・・・
感想
めちゃくちゃ面白い映画でした。
クリーチャー映画はまあクリーチャーが出て誰かが食べられて倒して終わりで、それも好きですが、そういう映画では全くありません。
人間関係
未知の寄生生物を描く本作、寄生生物はほぼ登場させずに人間関係にフォーカスを当てています。
「寄生されていないか確認するまで船内に留まること」を主張するシボーンとそれに反対する船員たちという構図なのですが、これがいい感じに人間関係を悪化させています。
論理的には正しいし、頭ではシボーンの主張も理解できるのですが、感情ではどうしてもそうできない。
その葛藤がリアルに描かれていました。
新型コロナウイルスの大流行において、濃厚接触者が外出自粛すべきか、マスクをすべきか、といった課題とパラレルに考えられる問題のような気がしました。
主人公の成長
本作で主人公シボーンは友人が一人もいないほど人付き合いが悪いのですが、船内で唯一解決できる頭脳としてリーダーシップをとる成長ぶりも見ものでした。
映像・音響
終始感情に合わせた音楽が映画とすごい調和してました。
また、寄生生物の色がエメラルドグリーンで美しい。
音と色を楽しむのもいいと思います。
また、クリーチャー映画ではクリーチャーを撮りますが、本作ではクリーチャーをあえて控えめに撮っています。
控えめというより、通常のクリーチャー映画だったら、もっと映すだろ!この角度だろ!という撮り方を全くしません。
ですので、クリーチャー映画を期待してみると★1つなんて評価になると思います。
逆にホラー系・スリラー系の映画として見るとかなりヒットすると思います。
まとめ: こんな映画
- 孤立無援、寄生生物、悪化する人間関係といった点で「遊星からの物体X」に似ている
- クリーチャーの登場はかなり少ない
- シーンは少ないがグロあり
- クリーチャーは多触手・寄生系
【映画】「間違えられた男」
アルフレッド・ヒッチコック監督の「間違えられた男」(原題:The Wrong Man, 1956)のご紹介です。
あらすじ
マニー(ヘンリー・ファンダ)は突然逮捕されてしまう。
複数の被害者はこぞって「犯人に違いない」と口を揃えるばかり。
警察から犯人と決め付けられているような事情聴取を受け、疑いが晴れればと筆跡鑑定をする。
しかし、筆跡と特徴のある文字の綴りが偶然にも似てしまい、留置所に入れられる。
マニーを信じる家族・親族は協力して保釈金をかき集め、弁護士を紹介するが、アリバイ作りは難航し・・・
雑感(落ちのネタバレあり)
実話に基づく本作、なんだか人間の記憶力って本当にスカスカなんだなあ、とつくづく思いました。
最後に真犯人が見つかり、マニーは無事釈放されますが、真犯人と顔が似てないことこの上ない。
真犯人とマニーが明らかに似ていない配役としているのは、被害者や警察による適当な犯人探しに対する批判と思わせました。
留置所に入れられるシーンではめまいでクラクラしてきてこの世の終わりかのような心持ちになり、下をずっと見てしまうといった描写がありました。
ヒッチコックは幼少期に親から経験として留置所に入れられたことがあるのですが、その時の恐怖感が留置所に入れられたシーンによく表れているのだと思います。
最後は奥さんが鬱病を患って完治しないまま終わりますし、間違えた人たちから謝罪も特に無いので、なんだかなあという感じ。
現実は厳しいなあ・・・
こんな人におすすめします/しません
- ヒッチコック好きな人はおすすめします。
- 周防正行監督「それでもボクはやってない」やシドニー・ルメット監督「十二人の怒れる男」が好きな人はおすすめします。
- 胸糞悪い気分にはなるので、そういうのが嫌いな人はおすすめしません。
【映画】「ロープ」
アルフレッド・ヒッチコック監督の「ロープ」(原題:Rope, 1948)のご紹介です。
あらすじ
ブランドン(ジョン・ドール)とフィリップ(ファーリー・グレンジャー)はパーティ開催の直前に、アパートの一室で友人のデイヴィッドを殺害する。
無能はいなくなるべきという考えの下、有能が無能のデイヴィッドを完全犯罪により殺害し、有能を証明するためである。
ブランドンはデイヴィッドを壊れた鍵付きのチェストに隠し、それを食卓代わりにしてスリルを味わおうとする。
パーティは開かれるが、参加者で2人の大学教授であるルバート(ジェームズ・スチュワート)が何かに気付いたように意味深な質問を投げかけてジワジワと2人を追い詰める。
感想
普通のサスペンスと違うところ3点
一点目は、観客側は完全犯罪を企む殺人犯の立場に立つこと。
立場が変わると映し方も変わります。
普通なら犯人を探すストーリーなので探偵的な役割を担う人を中心に映されますが、今回は犯人が分かっているのでその必要はありません。
そういうわけで、チェストが開けられる危機があるときは会話している人たちはフレームの外に存在して、チェストを重点的に映すという描写もありました。
犯人にとってはチェストが開けられないかハラハラドキドキで会話なんて耳半分という犯人の心の状態が表現されているようでした。
二点目は、全てがワンショットで繋がっているように見せていること。
ショットの切り替えは、登場人物の背中を映したときがほとんどのようでした。
切り替わっているとはいえ、それぞれのショットは長く、劇を見ているようでもあります。
ワンショットが長い分演技力がものをいうので、殺人を取り繕うブランドンとフィリップの演技に注目です。
三点目は、舞台がアパートの一部屋のみということ。
以前記事を書いた裏窓は、アパートの一室から周りの全部屋を覗き見るというものでしたが、それと比べてもだいぶ範囲は狭いです。
さらに言えば、アパートの一室のチェストがある部屋が中心となり他の部屋もほとんど映されません。
この一室だけで起きるサスペンスを90分ほどで短すぎず長すぎずで時間も場所もみっちり収まっております。
段々と崩れる演技
ブランドンとフィリップが何も企んで無いことを装う映画の中での演技についてですが、追い詰められるに従って段々と言動がおかしくなってしまうんですね。
彼らにとっては普通のつもりなんでしょうけど、明らかにおかしい。
いつも通りのように不自然さを無くそうと演じつつ、それがいつも通りではないと気付くのは難しいことなのだなあと思い知らされます。
【映画】「用心棒」
黒澤明監督の「用心棒」(1961年)のご紹介です。
あらすじ
凄腕の剣客である桑畑三十郎*1(三船敏郎)はある村に着いた。
その村ではパワーバランスが拮抗した2組のやくざが日々小競り合いを繰り広げている。
拮抗した状況を見て、彼は一方の組の用心棒として雇ってもらうこととした。
用心棒として抱え込んだ組は既に勝った気で相手の組と潰しにかかる。
いざ対決しようというところで、桑畑三十郎が突然、雇い主から不遜な態度を受けたと用心棒の職を放り出す。
用心棒がいなくなってしまい、さあ大変。
拮抗した双方の組が覚悟も無いままオドオドと戸惑う。
そんな状況を桑畑三十郎は想定通りに事が運んで楽しそうに笑う。
本作は桑畑三十郎が村のやくざたちにイタズラをして自滅させることを企む物語である。
感想
魅力的なキャスト
あらすじで書いた最初のイタズラで、物見やぐらの上に座って楽しそうにしている三船敏郎の笑顔が本当に楽しそうでいいですね。
三船敏郎の演技で有名のようですが、悪役の卯之助を演じた仲代達矢の演技も、表情と立ち姿だけで頭が切れる厄介な悪役が表現されていて、かなりいけてます。
2m超あるかという大男が出演されてますが、この方は羅生門綱五郎(らしょうもんつなごろう)という台湾出身の元力士・プロレスラーのようです。
正直大きすぎて鉄の棍棒でも振り回させたら太刀打ちできないし、新しい用心棒いらないんじゃないかと思ってしまいました。
名前を名乗らぬ格好良さ
あらすじで名前を桑畑三十郎と書いたのですが、彼自身が適当に作った偽名で、作中では名も無き侍状態なんですね。
名も無き侍が報酬欲しさでもなく*2名誉のためでもなく、ただ悪を成敗するという美学に惚れます。
「この紋所が目に入らぬか」と仰々しく名乗るあの方とは大違い。
本作が海外含め、名前を名乗らぬ正義の味方の走りだったらしく*3、映画界にも多大に影響しているそうです。
桑畑三十郎はもらったお金も困った人にすぐに渡しているので、そういう慈愛精神がアメリカ人のキリスト教観にマッチしたのかなあと思いました。
例えば「ある男がマフィアの抗争に巻き込まれた女性を偶然助け、マフィアを撲滅させる。(実は海軍特殊部隊で数々の勲章を授与し、名誉除隊した経歴を持っていたというオマケ付き)」という超テンプレストーリーは洋画であるあるですが、もしかしたら「用心棒」も何かしら影響しているのかもしれません。
カテゴリ別映画一覧
備忘用と検索しやすいようにカテゴリ別で一覧化しました。
(監督別はこちら → リンク )
各作品名をクリックすると私の過去記事に飛びます。
★☆の基準は以下のとおりです。*1
★☆☆ 良かった
★★☆ 大変良かった or 個人的に好き
★★★ 反芻したいor必要
※が付くものは理解が難解だったもの
上から順番に割り振られる仕組みになっています。*2
メンテは不定期ですので記事があってもリンクが付いてない場合があります。すみません。
Sci-Fi(クリーチャー、パンデミック、災害含む。)
★★☆「アウトブレイク」(1995)
★☆☆「ヴォルケーノ・パーク」(2019)
★★☆「グエムル - 漢江の怪物 - 」(2006)
★★☆「ゴジラ」(1954)
★★☆「ゼロ・グラビティ」(2013)
★★★「2001年宇宙の旅」(1968)※
★☆☆「ダンテズ・ピーク」(1997)
★☆☆「ミミック」(1997)
★☆☆「MEG ザ・モンスター」(2018)
★★☆「メン・イン・ブラック」(1997)
★☆☆「メン・イン・ブラック:インターナショナル」(2019)
ホラー
★★☆「コンスタンティン」(2005)
ファンタジー
更新まち
時代劇
★★★「七人の侍」(1954)
戦争
★★★「地獄の黙示録」(1979)記事作成中
★★★ 「フルメタル・ジャケット」(1987)
アクション
★☆☆「ゲットバック」(2012)
★★☆「トップガン」(1986)
★☆☆「マイ・ボディガード」(2004)
★☆☆「ワイルドカード」(2014)
サスペンス
★☆☆「暗殺者の家」(1934)
★★★「裏窓」(1954)
★★★「サイコ」(1960)
★★★「タクシードライバー」(1976)
★★☆「ヒッチャー」(1986)
★★★「めまい」(1958)
ドラマ(日常、恋愛、ドキュメンタリー含む。)
★★☆「ショックウェーブ」(2020
★★★「友だちのうちはどこ?」(1987)
★★★「東京物語」(1953)
★★☆「とうもろこしの島」(2014)※
★★☆「ザ・エージェント」(1996)
★★☆「ロッキー」(1976)
コメディ
★★☆「ジム・キャリーのエースにおまかせ」(1995)
*1:日々変動し得る個人の主観に寄ります。好みは人によりけりなので、基本的に全部オススメが前提ですし、見るべきだと思います。世の中何が自分の最高傑作になるか分かりません。と言いつつホラーは怖くて基本見ません。
*2:例えば「MEG ザ・モンスター」はSFとアクションが重複しますが、先にSFに割り振られるのでアクションカテゴリには属しません。