映画雑感

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【映画】「暗殺者の家」

アルフレッド・ヒッチコック監督の「暗殺者の家」(原題:The Man Who Knew Too Much, 1934)のご紹介です

【あらすじ】
ボブ(レスリー・バンクス)・ジル(エドナ・ベスト)夫妻とその子供のベティ(ノヴァ・ビルビーム)はスイス旅行に行きます。妻ジルはクレイ射撃大会に参加し、レヴィン(フランク・ヴォスパー)という射撃選手に敗れ準優勝。その後、家族ぐるみで仲の良いルイス(ピエール・フレネー)と妻がダンスパーティーでダンスを楽しむ中、突然ルイスが胸を銃で撃たれてしまいます。
ルイスが死に際に残した言葉を辿ると今度は子供のベティを誘拐され事件にどんどんと巻き込まれてしまい……。

【雑感】(ネタバレあり)
犯人は予測しやすい
クレイ射撃大会があった日に狙撃されますので、そりゃ犯人はクレイ射撃の関係者だろうと予測がつきます。クレイ射撃の描写がなければ犯人は無名の暗殺者で良いわけで、身近に犯人がいるというサスペンスを表現しているのかな?(悩み)

窓を指差す指の美しさ
冒頭でルイスが銃撃された時の窓を映す場面がありました。この場面で野次馬が穴の空いた窓を四方八方から指を指すのですが、よく見ると上側の指がおかしな角度であることが分かります(この差し方をすると腕と手首が不自然な形になる)。1本だと野次馬が集まっている感を出せない。上側を除くと絵として汚い。放射線状に広がる指を映すことで犯行現場を美しく見せることができています。
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銃撃戦
本作で秘密組織と警察らとの銃撃戦があります。この銃撃戦は1911年のSidney Street Siegeとして知られるロシアのアナーキストと警察の銃撃戦をモデルにしており、当時チャーチルが作戦指揮をとったそうです。
映画の銃撃戦の最初に警察官らが無防備で突っ込んでいき数人倒れるシーンがありました。その後、地元の鍛冶屋からライフルを緊急で調達して銃撃戦に挑むことになるのですが、実は彼らイギリスの警察官は銃を所持していなかった時代なのです。ヒッチコックと当時イギリスの検閲とで一悶着があったらしく、検閲側は銃を所持しないままロクに機能しないことは警察の汚点になるので避けたいが、銃を所持させたくもない言い分。ヒッチコックが解決案を聞いてみると放水を提案したとのことでした。結局地元の鍛冶屋からのライフル調達で検閲側も了承したとのことですが、規制面で色々と制約があった作品であることが窺えます。*1

マチュアが作った作品
1stは才能のあるアマチュアが作ったもので、2ndはプロが作ったものというヒッチコックの発言があってwikiでも引用されておりました。以下のようにトリュフォーによるヒッチコックインタビューで発言されたものですが、駄作と思っているかというとそうでもないと思います。

Let‘s say that the first version is the work of a talented amateur and the second was made by a professional.

Francois Truffaut, "Hitchcock" Faber & Faber (2017) P.94

文脈的には「1作目と2作目はコンサートホールでの違いはあれど、そう変わりはないだろう?」というヒッチコックの問いかけに対して、トリュフォーが熱を持って2作目がすごいんだと語ったので、"Let's say"(「まあそういうなら」的なニュアンス)と頭につけて発言した場面でした。2作目の方が素晴らしいとは思いますが、1作目の評価を低くするかというとそうでもないと思います。

【終わりに】
本作はリメイク版がありますので、それと比較すると面白いと思います。
ちなみに本作の冒頭はスイスを、リメイク版はマラケシュを舞台にしておりますが、スイスにしていたのはヒッチコックのハネムーン先だからだそうです。*2

以上読んでいただきありがとうございました。

 

 

*1:Francois Truffaut, "Hitchcock" Faber & Faber (2017) P.89-90

*2:*1 P.90