映画雑感

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【映画】「ゼロ・グラビティ」(2)

アルフォンソ・キュアロン監督の「ゼロ・グラビティ」について以前記事を書かせていただきました。

ゼロ・グラビティ」の映画紹介についてはこちらの記事から↓
zak-kan.hatenablog.com

本作において、作業中の主人公ライアン・ストーン(サンドラ・ブロック)に対してヒューストンから「ロシアが自国の衛星を破壊した」と連絡が入ります。
作中では焦る様子はうかがえませんが、こういった事例はどれほどあり、実際にどういった影響を及ぼすのでしょう。

衛星の破壊事例 
2022年までに衛星の破壊事例は主に以下5件あります。
① 2007年1月の中国による衛星破壊実験
② 2008年2月米国による偵察衛星の破壊
③ 2009年2月の米国イリジウム通信衛星とロシア軍事通信衛星の衝突
④ 2019年3月のインドによる衛星破壊実験
⑤ 2021年11月のロシアによる衛生破壊実験
本作が公開されたのは2013年ですので、①②③が念頭に置かれて作られたものと思われます。
ですが、本作と全く同じような事例が現実に2021年11月に起きていたということですから、先見の明もありますし、非常に現実的な作品であったというわけです。


衛星破壊の影響
衛星が破壊されると、宇宙デブリというものが大量に生じます。
宇宙デブリ*1とは役目を終えた人工衛星やロケットなど地球軌道上周回している物体の総称です。 *2
以下の資料から見てもわかりますが、衛星破壊によってこの宇宙デブリ、特に破片類の量が跳ね上がることになるわけです。

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JAXA理事長山川宏、「スペースデブリの現状と宇宙空間の安定的利用に関するJAXAの取り組みについて」参照

宇宙デブリの恐ろしさ
大量の破片類が生じるわけですが、この宇宙デブリは秒速3km〜15km(ライフルは秒速1km)で大気圏との摩擦で消滅するか、さらに衝突するまでずっと動き続けるわけです。*3
ネジ程度の大きさでも秒速3kmで飛んで来れば簡単に人を貫通してしまいますし、宇宙船を故障させる原因にもなってしまいます。
さらには別の人工衛星を破壊し、さらなる連鎖を生むという恐ろしさもあります。
本作ではこの連鎖反応が描かれており、その恐ろしさが巧みに表現されているのです。*4

終わりに
2021年11月のロシア破壊事例では国際宇宙ステーションISS)にいた宇宙飛行士らが退避行動を強いられたようですが、まさに映画のような出来事が実際に起きてしまったということがわかります。*5
本作はフィクションとして作られていますが、十分にノンフィクションになり得たのかもしれません。
こういった情報を知った上で見ると、さらに緊張感を持って見ることができそうです。
以上ご参考いただければ幸いです。

読んでいただきありがとうございました。

*1:デブリは英語の"debris"のことで、日本語で破片や瓦礫を意味します。

*2: -技術開発(3)スペースデブリ観測- JAXA|宇宙航空研究開発機構 追跡ネットワーク技術センター より

*3:JAXA理事長山川宏、「スペースデブリの現状と宇宙空間の安定的利用に関するJAXAの取り組みについて」https://www8.cao.go.jp/space/taskforce/debris/dai1/siryou2.pdfでは時速10km〜15kmとありますが、JAXAホームページ -技術開発(3)スペースデブリ観測- JAXA|宇宙航空研究開発機構 追跡ネットワーク技術センター では時速3km〜7kmとあります。いずれにしろライフルの数倍の速度で衝突するようですので危険であることに変わりません。

*4:これをケスラーシンドロームと呼びます。

*5: ロシアが衛星破壊実験を実施。米国からの非難にロシアは「衛星の破片は宇宙活動の脅威にはならない」と応答(秋山文野) - 個人 - Yahoo!ニュース