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イミテーション・ゲームの実話との相違点を検証

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密(字幕版)

1.はじめに

『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』は、モルテン・ティルドゥム監督による映画です。

本記事では、この映画が実話とどのように異なるかについて詳しく解説します。

歴史的事実と映画の描写を比較し、アラン・チューリングの人物像やエニグマ暗号解読の過程などの違いに焦点を当てます。

 

2.イミテーション・ゲームの実話との相違点を検証

2-1. アラン・チューリングの描写

映画『イミテーション・ゲーム』では、アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)は社交的な問題を抱え、同僚との関係がぎくしゃくしている人物として描かれています。

しかし、実際のチューリングはもっと社交的で、同僚たちとも良好な関係を築いていました。

例えば、同僚のオリーブ・ベイリーは「チューリングは非常に優れたユーモアのセンスを持っており、皆と仲良くやっていた」と証言しています。

また、映画ではチューリングが同性愛を隠していたように描かれていますが、実際には彼の友人や同僚は彼が同性愛者であることを知っており、彼自身もそのことを隠していませんでした。

このように、映画の中で描かれるチューリングの人物像は、実際の彼とはかなり異なっています。

 

2-2. エニグマ暗号の解読過程

映画では、アラン・チューリングがほぼ一人でエニグマ暗号を解読する装置「クリストファー」を開発したかのように描かれています。

しかし、実際にはチューリングは多くの優秀な数学者やエンジニアと協力してエニグマ暗号の解読に取り組んでいました。

さらに、エニグマ暗号解読の機械は「ボンブ」と呼ばれ、既存のポーランドの解読機の改良版として開発されました。

また、映画ではジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)がクロスワードパズルを解くことでBletchley Parkに採用されたと描かれていますが、実際にはクラークは既にケンブリッジ大学での数学の成績が評価されており、Bletchley Parkでの採用もその実績に基づいて行われました。

このように、エニグマ暗号解読の過程やチューリングの役割についても、映画と実際の歴史には大きな違いがあります。

2-3. ジョーン・クラークの役割

ジョーン・クラークの役割についても、映画と実際の歴史には違いがあります。

映画では、クラークがチューリングのチームに唯一の女性として入り、非常に重要な役割を果たしたように描かれています。

しかし、実際にはクラークはBletchley Parkでの他の多くの女性と同様に、最初は文書処理の仕事をしていましたが、その後、数学的才能が認められ、チューリングのチームに加わることになりました。

クラークとチューリングは大学時代からの知り合いであり、そのため彼女の採用はクロスワードパズルによるものではなく、彼女の実績と才能によるものでした。

また、彼女の貢献は非常に重要であったものの、映画で描かれるほど劇的な役割を果たしたわけではありませんでした。

実際には、彼女も含めた多くの人々の共同作業によってエニグマ暗号の解読が成功したのです。

 

2-4. 戦争の影響とその後

映画『イミテーション・ゲーム』では、エニグマ暗号の解読が第二次世界大戦の行方を決定的に変えたとして描かれていますが、実際の影響はもっと複雑です。

確かにエニグマ暗号の解読は戦争の勝利に大きく貢献しましたが、チューリングや彼のチームが行った他の多くの努力と同様に、複数の要因が絡み合っていました。

例えば、映画ではチューリングたちがエニグマ暗号を解読した直後にその情報を軍に伝え、ドイツの潜水艦の攻撃を防ぐために使われたと描かれています。

しかし、実際には解読された情報をどのように活用するかについては、極めて慎重に行われました。

ドイツ軍に解読がばれることを避けるため、解読された情報をどう使うかについては常に計算され、戦術的に使われました。

さらに、エニグマ暗号の解読自体も、単にチューリング一人の功績ではなく、ポーランドの科学者たちの先行研究や他の連合国の科学者たちとの協力があってこそ成し遂げられたものです。

そのため、映画で描かれるような「一人の天才が戦争を勝利に導いた」という単純な物語ではありません。

2-5. チューリングの晩年と法的問題

映画では、アラン・チューリングの晩年が非常に悲劇的に描かれています。

彼が同性愛者であることが発覚し、1952年に逮捕され、化学的去勢を強いられたことは事実です。

しかし、映画の中で描かれる警察の調査や裁判の詳細にはフィクションが含まれています。

例えば、映画に登場する刑事ロバート・ノックは架空の人物であり、実際にはチューリングがソビエトのスパイとして疑われていたという設定も事実ではありません。

実際には、チューリング自身が小さな窃盗事件を警察に報告したことで、同性愛が発覚しました。

また、映画ではチューリングが「クリストファー」と名付けた機械が重要な役割を果たすとされていますが、実際の暗号解読機は「ボンブ」と呼ばれ、特定の人物の名前ではありませんでした。

映画が感情的な要素を強調するためにこのような変更を行ったと考えられますが、実際の歴史的事実とは異なります。

チューリングの晩年は確かに悲劇的でしたが、彼の貢献が評価されるようになるのは彼の死後、長い年月を経てからのことでした。

彼の名誉回復がなされたのは2013年、彼の死後約60年が経過してからのことです。

この名誉回復が遅れた理由は、当時の社会的および法律的な状況によるものです。

1950年代のイギリスでは、同性愛は犯罪とされており、社会全体が厳格なモラル観を持っていました。

彼の名誉が回復されたのは、2009年に英国政府が公式に謝罪し、2013年にエリザベス2世によって正式に恩赦が与えられたためです。

これは、長年にわたる多くの人々の努力と、同性愛に対する社会の見方の変化によって実現しました。

この名誉回復は、チューリングの業績と彼が受けた不当な扱いに対する再評価の象徴となりました。

 

3.あらすじ


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『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』は、アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)を中心に展開される第二次世界大戦中の実話を基にした映画です。

チューリングは、英国の暗号解読チームであるブレッチリー・パークに招かれ、ドイツ軍のエニグマ暗号を解読する任務を負います。

物語は、警察がチューリングの家を調査するところから始まり、彼の過去を振り返る形で進行します。

チューリングは、エニグマ暗号の解読に成功するまでの過程で、同僚との摩擦や彼の秘密を守るための葛藤を経験します。

特に、唯一の女性メンバーであるジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)との友情や協力が描かれます。

物語の前半では、チューリングがどのようにしてチームを率いてエニグマ暗号を解読するための装置を開発したか、そしてその過程で直面する困難や敵対的な環境が詳細に描かれています。

このスリリングな展開が、観客を物語の核心へと引き込みます。

 

4.監督・脚本・登場人物

監督:モルテン・ティルドゥム

脚本:グラハム・ムーア

登場人物

アラン・チューリング(ベネディクト・カンバーバッチ)

ジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)

ヒュー・アレグザンダー(マシュー・グード)

スチュワート・メンジース(マーク・ストロング)

ジョン・ケアンクロス(アレン・リーチ)

デニストン司令官(チャールズ・ダンス)

5.最後に

 

『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』は、アラン・チューリングの実話に基づいていますが、多くの部分でドラマチックに脚色されています。

映画と実際の歴史の違いを通じて、チューリングの本当の姿や彼の業績についてより深く理解することができます。

実話と映画の相違点を知ることで、当時の社会的背景やチューリングが直面した困難をよりリアルに感じることができるでしょう。

この映画を見た後に、チューリングの実際の生涯についても調べてみると、彼の偉大さをさらに感じることができると思います。

本記事が、映画と実話の違いを理解する一助となれば幸いです。

映画を楽しむと同時に、歴史的な事実にも目を向けることで、より深い視点で物語を味わうことができます。

以上で記事を締めくくります。

ご覧いただきありがとうございました。

 

参考