ニューヨーク市立ハンターカレッジで映画制作に関して教鞭を取られ、自らが映画制作者でもあるグスタポ・メルカード氏の「Filmmaker’s Eye - 映画のシーンに学ぶ構図と撮影術: 原則とその破り方 - 」のご紹介です。
この本は映画の構図と撮影術を具体的な映画のシーンを引用しながら解説するものです。
具体的にどういったことが書かれているのか、一部【私の学び】でご紹介させていただきます。
【私の学び】
監督が何を考えて映画を作っているかを考える 本書では以下のとおり、本質やコアアイディアを明確にすることがよいショットを作る出発点としています。
その構図の主役となる要素、フレーム内に入れるものと除外するもの、フレーム内の要素を超えてそのショットによって伝えたい内容の3つを、自分自身が正確に理解する必要があります。そのために有効なのが、ストーリーの核にあるテーマやアイディア、すなわちストーリーの本質やコアアイディアを明確にすることです。(本書、P.4)
つまり、良質な映画であればあるほど、本質やコアアイディアが存在し、それが監督の手腕によって明示的・暗示的に示されているということです。
今まで私はただただ「面白い」「かっこいい」「映像がキレイ」「CGがリアル」「緊張感が伝わる」と感じるだけの見方をしていました。
この見方でも問題はなく、優劣があるわけでは全くないのですが、別の見方をすることで人よりも2倍映画を楽しめることができます。
例えばこの本を読んで、別途記事を書いている「ゼロ・グラビティ」のストーリーの本質は精神的な弱さに対する試練とそれによる成長と考えるようになりました。
孤独に苛まれている時にハイアングル、それに打ち勝つ場面ではローアングルという傾向があり(本書でもロッキーに関して解説がありますが、そういう取り方は定番のようです。)、そういう意図があるのでは推測していく楽しみを感じました。
その見方が正しいのかはさておき、色々と考えを巡らせる見方をしたい方にとっては素晴らしいヒントを与えてくれる本と思います。
イメージシステム イメージシステムは映画の中で繰り返される映像や構図を言います。
これにより言外の意味を観客に対して示唆することができます。
本書ではパク・チャヌク監督の「オールド・ボーイ」(2006年)が紹介され一つ一つの該当シーンが紐解かれておりますが、この手法により作品に奥深さを持たせ、繰り返し見たいと重わせるようになっていると納得できます。
他では例えば別途記事を書いている「ヒッチャー」において、執拗に追ってくるジョン・ライダーがほとんど同じように道路に転がるシーンが2度登場します。
普通に見ていたらただ転がっていると思うだけなのですが、同じような転ばせ方をしているので、これは何か意味があるんじゃないのか?と考えられるようになりました。
ショットの意味を考える 本書で言及しているショットのうち主観ショットについてご紹介します。
主観ショットはキャラクターに代わって観客にアクションを体験させられるショットです。
体験できる反面、キャラクターの表情・反応を見ることができませんので、観客が想定と異なる感じ方をしてしまう可能性があり、ストーリーがぶれてしまうデメリットも併せ持っています。
例を挙げると、何かに追われて出口を探しているシーンで主観ショットを採用した場合、出口を見つけた瞬間にキャラクターが嬉しいのか、それともまだ緊張しているのかでストーリーの捉え方も変わってきます。
そういった理由で主観ショットは限定して使用されるべきとしています。
他にもたくさんのショット手法について解説されており、本書は一つ一つのショットに意味があるのだ、こういう意味があるのだ、という示唆を与えてくれます。
例を挙げた出口を探すシーンは、先ほど記事を引用した「ゼロ・グラビティ」でも登場します。
このシーンでは主観ショットを採用しているのですが、息遣いから緊張している様子が窺え、前述したデメリットを感じさせないようにしています。
【終わりに】
本書を読むだけで鑑賞する映画の裏の意味がすぐになんでも分かるというものではないですが、それを理解する上で多くのヒントを与えてくれる良書と感じました。
大型本を固定レイアウトで提供していることもあり、もしKindle版を購入する場合は12inchのiPad Proでの閲覧を推奨します。
以上読んでいただきありがとうございました。